ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

弁護士に相談する

「緊張されてますか?」「…」

お茶を入れてくれた事務員さんの問いかけにも満足に答えられないくらい、私は緊張して縮こまっていた。無事に…というよりかなり強引にブラック企業を退職してすぐに、私は債務整理専門の法律事務所を訪ねていた。

どうなるのだろう…無事に自己破産ができるのだろうか?

お茶と一緒に渡されたヒアリングシートに書き込む氏名、住所、借金情報などの文字が、いびつに歪んでいる。

この若さで500万円を超える借金…しかもそれを、払えないと言っている。借金を全て放棄して、義務も放棄したがっているふてぶてしい人間、と思われないだろうか。なんて駄目な人生を歩んでいるんだと、見下されないだろうか。思いっきり説教でもされるのではないか。

ブラック企業に勤めてしまったばっかりに借金で首が回らなくなったなんて、なかなか人に言えるものではない。まして、相手は弁護士。日本で一番の難関試験に合格し、その後も破格の収入を得ているエリートだ。別世界の人間だ。ごみでも見るような目つきで見られるのではないか?そう思うと、このまま逃げ出してしまいたいような衝動にかられた。弁護士が入ってきたとき、私は処刑台に乗せられた罪人のような顔をしていたと思う。

結論から言うと、もちろん弁護士は私を見下すような素振りは一切見せず、そればかりか真摯に相談に乗ってくれた。債務整理の知識など何もない私に、時々具体例やエピソードなども交えながら最善の方法を説明してくれ、お陰でこれから取るべき方法も明確になったと思う。こちらも随分と無知な質問もしてしまったと思うが、そうした過程を経てしっかりとコミュニケーションが取れたことも大きな収穫だった。

自己破産をするという方向性でいくことに決定すると、弁護士は退席し、先ほどお茶を入れてくれた人とは違う、ベテランの風格が漂う事務員が入ってきた。私の年収や細かい債務の額などをヒアリングし、一つひとつ記録をつけられる。その上で、今後必要となる書類の一覧を示された。ブラック企業の異様な給与の低さは既に述べたが、こういった企業に勤めている場合はいつか残業代の請求などをするのだろうかと漠然と考え、給与明細やこの企業に勤めているがゆえに生じた費用などのデータはすべて手元に揃えてあったことが功を奏した。

「全て管理されているなんて素晴らしいです。これで手続きもスムーズに進みますよ。」

事務員さんは私に対する侮蔑など微塵も含まない笑顔を向けてくれた。優しい言葉をかけてもらうなんていつぶりだったか分からなかった。