ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

きっと今年あの会社は潰れる

私が勤めていた企業は航空業界の単純作業を請け負う会社だ。

航空業界。昨今悲しいニュースしか報じられない、そして今最も危機に晒されている業界だ。ただでさえ、あんなレベルの中小企業は、この新型コロナウイルスの影響でバタバタと倒産していくであろうと言われている。

きっと来年の今頃、あの会社はなくなっているだろう。「専ら派遣」をしている先の、某航空会社の子会社から、もうお宅に業務を委託しないと切られるか。その会社からの入金が追い付かなくなって、社員へのあの僅かな、本当に僅かな給与も払えなくなって、破綻するか。あるいは社員から感染者が出て、業務自体がクローズしてしまうか。いや、もはや空港自体がクローズする日も近いのか…

いずれにせよ、あの会社は潰れるだろう。この新型コロナウイルスのせいで。

 

悔しくてたまらない。

 

私が身の縮む思いをしてくぐった東京地方裁判所の門を、社長もまたくぐるのだろう。そして安心と屈辱のまじりあった複雑な気持ちで、会社と己に下される破産宣告を聞くのだろう。そしていつかどこかで言うのだろう。「こういう会社を経営していたけれど、新型コロナウイルスのせいで倒産してしまったんだよ」そして、それを聞いた人はこう言うのだろう。「まあ可哀そう、運が悪かったのね、しょうがないわね、あの時はリーマンショック以上の不況だったんだから…」

 

悔しくてたまらない。

 

違うのだ。あなたの会社は、運が悪いから、新型コロナウイルスのせいで倒産するのではないのだ。倒産するべくして倒産するのだ。

恨みはある。この身を焦がすのではないかと思うほどの憎しみが、常に湧き上がってくる。退職から一年近くが経とうという今、幸せになった今でも。

私もおそらく、そこまでバカではない。罪は絶対に犯さない。法律と倫理は絶対に守る。しかるべき方法で、あの会社を潰したかった。

それは、労働基準監督署への正当な手続きを踏んだクレームであったり、彼らの犯している罪の告発であったり、まだまだ私には、やるべきことがある。あまりにも多くのやるべきことがある。それだけのことを、あの会社はしているのだから。

しかし、たった一人の従業員など無力だ。あまりにも無力なのだ。きっと私には、あの会社は潰せない。全てを暴露したとしても、全てを白日に晒しても、あの会社の取締役の一人変えられない。

労働者と企業は対等?そんなものは幻想だ。企業は、法人は、絶対的な強さを持っている。少しのことではびくともしない、憎らしいほどの強靭さを持っている。私がどれだけ足掻いても、与えられる影響など微々たるものだ。

それに比べて、この新型コロナウイルスの威力はあまりにも大きい。いくつもの企業を吹き飛ばすこのウイルスがきっと、あのブラック企業を一掃してしまうだろう。そして残るのは、「元従業員に復讐されたブラック企業」ではなく、「運悪く潰れてしまった、哀れな企業」

 

…悔しくてたまらない。