ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

退職届を出す場所がない!?

「限界です。退職させてくださ「困るんだけど」

上司は私の目も見ずにぶっきらぼうに言った。

「退職届も書いてきました。受け取ってください。」

「俺が受け取るべきじゃねえし」

「ではどなたに提出すればよろしいですか?」

「知らね」

まだ転職先は決まっていなかったが、この会社に一日でも長くいることは何の利益にもならないし、そもそも休みが月に実質三日程度しかないこの会社にいては満足に転職活動もできないだろうということで、私はもう退職して実家に戻ることにした。たしかに給与は入らなくなるが、家賃と生活費は払わなくてよくなるし、栄養ドリンクもコーヒーも、無駄な備品代も払わなくて済む。

辞めようと思うと、これまで我慢できていたものが突如として我慢できなくなり、一日でも出勤することが無理になる。せめて月末まで待とうか、などと一瞬考えたこともあったが、ではあと何回あの罵詈雑言に耐えるのか、何回最も私を敵視するお局とシフトが被るのか、そして夜勤をしなければならないのか…

そう考えると、全ての本能が「もう、無理だ!」と叫んでいた。あとはアルバイトでもいい、派遣社員でもいい、ここより稼げる仕事をしながら全力で転職活動をしていけばいい。茨の道だろうが死にはしない。でもここにいたら、もう精神的にも肉体的にも、限界が来てしまうかもしれない。

決意が固まるとやけになり、私は人事部、総務部、労務部、ありとあらゆるところに足を運び退職を直談判した。そして、恐ろしい実態に気づいた。

「うちに退職届受け取る部署、ないから」

(…そんな馬鹿な!)

まず上記の三つの管理部門は、入社時たしかにあると言われていたのだが、名前だけのようで組織がなく、本社と呼ばれた場所(いつもは空港のターミナルで働いていたため本社に行くのは入社式以来だった)は小さなレンタルスペースで、かろうじて数人で会議ができそうな小部屋しかなかったのだ。

(大体、入社はできて退社はできないなんてあるものか。入社のときに手続きをした部署もあったはずだ。それを全員でないと言いはって、物理的に退職届を受理せず、辞めさせないつもりなんだ)

ここまでくると、会社の汚さに猛然と腹が立ち、これ以上ここで働こう、退職できないならあきらめようなんて微塵も思えなくなる。

(そういえばいつも、社内メールに「●●さんと連絡が取れなくなりました」「昨日付けで退職となりました」なんてお知らせあったな…もはや飛ぶのが常識か…)

しかし、本当に私も「飛んで」しまうと、何かしらの損害賠償を請求される恐れも否定できない。法学部で労働法を中心に専攻していた友人に、恥をかなぐり捨てて連絡を取ってみた。

内容証明郵便で退職届を送り、二週間経てば退職できる」

えっ、そんな簡単でいいの?と拍子抜けするくらい簡単だった。そうか、雇用契約なんて強固なもの、頭を下げて頼み、伏し拝まなければ解除できないものと思っていたが、意外と法律はシンプルなものなのだ。

彼女に連絡を取ってよかったのは、退職方法を指南してもらえただけではなかった。恥をかくついでに借金問題についても打ち明けると、彼女は私の運命を決定づける助言をくれたのだ。

それが、「自己破産で人生を立て直せる」ということだった。