ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

キャリア形成ができない恐ろしさ

「お辞めになった方がいいとは思いますが…今のご経歴ではちょっと…」

転職エージェントのスタッフは、言いにくそうに言葉を濁した。

「最低限、お金に困らない生活さえできれば構わない」これだけの条件を掲げて転職エージェントに駆け込んだ勇気がしぼんでいく音が聞こえるようだった。

「やはり短期離職になりますよね…?」

「いえ、ご経験が。この企業はちょっと異常ですよ…」

ブラック企業だからですか?」

「ガンガン仕事させるようなブラック企業だったらよかったのですがね…」

スタッフは優しい口調で説明を始めたが、その内容の残酷さに私は愕然とすることになる。

「あなたがお勤めの企業は、企業の中で最も簡単な仕事、いうなれば雑用を取ってきて集約する、そんな企業なんです。あなたがこれまでされてきたお仕事は、正直大学生のアルバイトがするレベルのお仕事です。あなたはまだ入社半年ですが、まだそんな仕事しかしていないのか?と訝られてしまうに十分です。同級生の方はもう、より大きな仕事、責任のある仕事をされているはずです。

だからこそ、ここに三年いなさい、と勧めることもできません。三年経っても雑用しかしてこなかった、などと言ったら、より転職のハードルが高まります。キャリア形成がまったくできないんです。こうした企業は、仕事を作り出すことしか考えておらず、従業員を社会人として育てていこうなんて考えがまったくない…」

「じゃあどうすれば…」

「正直、この会社の経歴なら消したほうがいい。アルバイトをしていたということにして、既卒就活や未経験歓迎の中途採用を目指すとか…それならばいくつか案件もご紹介できます。ただし、長い活動になりますから、その間はお辞めにならない方がよろしいです。」

「消した方がいい…ですか…」

こらえようと思っても、自然と涙声になってしまう。これでも航空業界で、グローバルな仕事ができると思っていた。外国語を使う仕事、責任のある仕事、そんな求人情報の文句を信じてしまった私が愚かだったのかもしれない。だからといって、その代償はこんなに大きなものなのか。借金、病気、そして「大学卒業後アルバイトをしていた」という経歴…

私に与えられていた仕事は、無機質なコード化されたアルファベットや数字の入力、書類配布、それが何の意味なのかも教えてもらえない複数のボタンを合図に合わせて押すこと、などだった。そしてこの仕事を、自分のような新入社員だけではなく三年目のベテラン(ブラック企業ゆえ一年もいれば大ベテランの域である)もしていること、これ以外の仕事はないこと、管理部門は別会社からの天下り組で形成され、自分がどう努力してもそこに行くことはできないこと、をこの頃になってようやく悟ったのも、転職活動を始めた大きな理由だった。

(どうしてこんなことに…)

目の前にはスタッフも必死で抽出してきてくれたであろう二枚の求人票が並べられていた。その内容に興味を持つことも、文字の羅列を読解しようということも、今の精神状態では困難なことに思えた。