ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

止まらない借入

(…結構簡単だな)

消費者金融無人契約機から出ながら、私は乾いた笑いを漏らした。

「じゃ、二件目行こう」

「え、これだけで十分じゃないの?」

何言ってるの、とでも言いたげに同僚は肩をすくめた。

「一件だけじゃ返せなくなったときのために、保険として二件目も借り入れておくんだよ。会社じゃみんなやってるよ」

「…そっか」

度重なる睡眠不足のため靄がかかったような頭の中で、なんとなく話の整合性が取れたような気がした。

「予備とか、保険とか、そういうのって社会人は大事だね?」

そう納得しようとしたのかもしれない。複数社でカードローンを組むなんて、まともな頭だったら危険だと認識できるはずだったのだが。いや大丈夫、私は競馬やホストクラブで散財するのではないのだ。あくまでもこちらは予備であって、多重債務なんてことはないはず…

しかし、多少のためらいと悩みは、早速財布に滑り込んできた万札を見た瞬間、即座に吹き飛んでしまった。

 

(…五万円!)

 

これだけのお金を手にしたのはいつぶりだろうか?いつも財布には二千円、三千円がいいところで、小銭をかき集めながら、150円のカップラーメンと120円のカップラーメンのどちらにしようか、コーヒーをもう一杯飲んでしまってよいものだろうか、なんて小さいことを一生懸命考えていたのに。

ああ、このお金で何をしよう。そうだ、夜勤明けに眠るのは眩しくて辛いから、先輩たちは借入をしたお金で一番に遮光カーテンを買うと言っていた。それから、毎日ヘルメットを被って走り回らされる、事務職とは名ばかりのグランドハンドリング業務。マッサージにも行ってみよう。髪を固めるスプレーも、もう少しいいものを買ってみようか?一番安いものは髪質が悪くなってしまって困っていたから…

 

五万円はすぐになくなった。でも、給料日になれば20万円は入るのだ。これくらい、どうってことない。ふらふらと再びお金を求めて借り入れに走る。疲れを取ること、人並みの生活を送ること、それだけを意識していただけなのに、なぜか一週間で軽くお金を使い切ってしまう。

「使いたいと思ったときにお金を使える」この感覚こそ、私が一番欲しいものなのかもしれなかった。ブラック企業は、月の半分以上夜勤に入っても手取りはせいぜい20万円程度。休みは一ヶ月に7日と決まっていたが、その半分以上は夜勤明けなのだから、実質自由になる日は3日もない。この3日を楽しまなければ、私は一体何のために働いているのか…

給料日が来た。日頃の労力を考えるとまったく割に合わない金額が振り込まれる。その半分以上が即座に返済に消えた。しかし大丈夫だ。私はまだまだ借り入れることができる。予備の契約だってある。一ヶ月に20万円使わなければ、絶対に破綻なんかしないのだ。

そう考えて、私は毎週のように借り入れに走るようになった。