消費者金融への誘い
「お金がない…」
空っぽのドデカミンの空き缶を休憩室のテーブルに置きながら、私は情けない声で呟いた。すっかり酒焼けした声だが、この独特の声質もこの会社では目立たなかった。
「あんた、親元からいくら送金してもらってんの?」
「えっ、社会人が貰うわけないよね?」
「この会社では常識だよ」
同期が驚いたようにカップラーメンをすすり上げた。この休憩室にはカップラーメンの自動販売機がぽつんと置かれているだけで、社食や売店が揃っている企業との残酷な差はこういうところでも感じられた。
「ここ給料低すぎるじゃん。親元から仕送りしてもらうか、カードローン組むか。この会社ではみんなどっちかだよ。まあ、休みが少ないから遊びに行って散財するってこともないし、それでなんとかなるんじゃない?」
「カードローンか…」
私は決して裕福な生まれではない。だからこそ大学に進学するときは奨学金を借りたし、それも親には迷惑のかからない機関保証を選んでいた。仕送りなんて頼めない…親に金銭的な余裕がないというだけではなく、せっかく正社員になったことを喜び、一人暮らしに送り出してくれた親に、仕送りなんて頼みたくなかった。学生でもあるまいし…
「じゃあ一回だけ、やってみようかな」
「マジ?結構簡単だよ。ここの会社では結構やってる人いるらしくて、私も先輩から紹介してもらったんだ」
「教えて。お金必要なんだ」
私は真剣に頼み込んだ。というのも、日々生活で精一杯の上に体のあちこちを襲う不具合がいよいよ常軌を逸してきており、人間ドックの受診を決めていたのだった。
が、もちろんそんな贅沢をするお金はない。
(絶対どこか悪いんだし…病気になっているも同然だから。それで悪いところがちゃんと見つかって、しっかり治療する方がいいに決まっている。そうしたら、薬代もドリンク代もいらなくなって、かえって得かもしれない。そのための投資みたいなものだから…)
こう言い訳をしつつ、私は初めて消費者金融に手を出した。入社二ヶ月目のことだった。