ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

こんなに使いたくない、医療費・薬代

こうして早速会社への不信感も生まれ、金銭面での心配も背負ったところで、私の社会人生活が始まった。1週間(短い…)の座学を経て、航空業界の知識どころか社会人としてのマナー・常識すら分かったのか分かっていないのか、という状態で、私は現場に出ることになった。そして、その瞬間から夜勤を含む過酷なシフトが組まれていくことになる。

さて、夜勤を経験したことのない方も多いだろうが、多くの方は夜勤のシフトについて工場等で採用されている以下のようなパターンを想像されると思う。

五日夜勤→夜勤明け→二日休み→五日日勤→二日休み→五日夜勤…

ポイントは、夜勤と日勤を一定期間連続で行ったあと、休みを経てしっかり体内時計を調節すること。当然だ。人間は生理的に、昼間起きて活動し夜寝るものだ。昼間適度に活動すれば、どれだけ眠るまいとしても夜には眠くなる。そして一度眠れば、5、6時間は眠ったのちに自然と目が覚める。夜勤は人間のこうした生理的機能を無理やり変更しているわけだから、過酷に決まっているものであり、だからこそ体内時計を丁寧に管理する必要がある。

しかし悲しいかな、それを「根性で何とかなる」と一蹴する人間も一定数おり、私は手渡されたシフト表を見て愕然とした。

「日勤→夜勤→夜勤明け→日勤→夜勤→夜勤→夜勤→夜勤明け→休日→日勤…」

まったくもって統一性のない、子供が「夜勤」「日勤」「休日」「夜勤明け」というピースをばらばらに押し込んだようなシフト。詳しくは書けないが、一口に「日勤」といっても4時からの勤務もあれば11時からの勤務もあり、夜勤も18時からもあれば23時からも…とにかくスタートもゴールもどこも揃っていない、あまりにもいびつな勤務体系だった。

こんな生活が体にいいはずがない。たった一ヶ月で、私の体内時計は崩壊した。今が朝なのか、夜なのか、これから眠っていいのか、起きて働くべきなのか、何も分からない。寝なくてはと布団に入っても眠れず、一睡もせずに仕事に行く。仕事中でも急激な眠気に襲われ、座っていたら眠ってしまうから、中腰で仕事をする。とにかくまともに睡眠時間を取ることができず、私は自然と薬に頼らざるをえなくなってきた。

眠るときには、睡眠薬を。

起きたらまず、眠眠打破を一杯引っかける。次第に眠眠打破に耐性がつき、強強打破を二杯常飲するようになった。

休日が少なすぎて体力がもたない。職場についたら、常に自動販売機で売っているドデカミンストロングを二本買い、一気飲み。

眠眠打破強強打破はとりあえず目を覚ますためのものなので、仕事中も襲ってくる睡魔を撃退するほどの効果はない。自動販売機に頻繁に足を運び、コーヒーで追い炊きをする。

これで仕事が楽しければいいのだが、このような待遇で働いている社員がストレスフルでないはずがなく、先輩の苛立ちは常に新入社員に向けられる。胸倉をつかまれ怒鳴られ、気を失うのではないかと思うほど耳元で罵倒され、勤務時間のすべてを詰り尽くした挙句「泣かしてやった!」と破顔一笑。詰め込んだエナジードリンクが嘔吐となってトイレに流れるすぐ横で、別の新入社員の絶叫にも近い号泣が、流水音に紛れきれず響き渡る。

メンタルクリニックに駆け込み、胸中で荒れ狂う恐怖と屈辱を薬で抑え込む。

生理が止まり、慌てて婦人科にも駆け込む。治療可能な疾患など、何も見つからない。

胃が痛むから胃薬を、頭痛も止まらないから鎮痛剤を、送迎タクシーの運転が荒すぎるから酔い止めも…

健康保険証を出す動作がすっかり慣れてきた頃には、私はその保険証に記載された社名を見るだけで吐き気を催すようになっていた。