ブラック企業正社員が奨学金を返せず自己破産した話

当時23歳。航空業界某下請ハンドリング会社事務職。正社員でも奨学金返済ができず自己破産した経緯を語ります。

自己破産のデメリット

「本当に大丈夫なんでしょうか…」

手続は意外に簡易なものであり、ハードルもそう高くない。しかし私は、まだ払拭しきれない不安が多く残っていた。

借金がまったくなくなるなんて、夢のような話だ。だからこそ、メリットしかない手続きであったら誰もが自己破産をしてしまい、債権者は泣き寝入りせざるを得なくなる。自己破産なんて絶対にしたくない、と頑張って働くモチベーションにもなりうるほど、自己破産はデメリットが多いものだ。

①生活必需品以外は全て手放すことになる

私の場合は当てはまらなかったが、もし車や美術品を所持していた場合、ドラマでよく見るような赤い札が私物にべたべたと貼られ、有無を言わさず持っていかれるのだろうか…典型的な「借金を負った人」というレッテルが貼られてしまったように思えてしまう。このコンプレックスを乗り越えるにはかなりの時間が必要だった。

②一定の職業に就けなくなる

弁護士、司法書士といった就きたくても就けないような仕事も多いが、警備員、証券業、旅行業など範囲が幅広い。私は自己破産手続中は無職だったが、やはり自己破産をしたという後ろめたさがあり、こうした業務への転職はなんとなく敬遠した。

③連帯保証人がいる場合は迷惑がかかる

「連帯保証人だけには絶対なるな」と言われている人も多いと思うが、連帯保証人はこのように債務者が返済できない状況に陥ると、債務者の代わりにこの膨大に膨れ上がった債務を、時には一括で返済する必要がある。

私は奨学金を借りるときに連帯保証人を立てる人的保証ではなく機関保証にしていたため、誰に迷惑をかけることもなかった。もし親を連帯保証人にしていたら、自己破産の選択を躊躇っていただろう。

④官報に掲載される

「破産者であるという情報が全国に公開されるんですか…?」

私の声が最も絶望的なトーンになったのはこの情報を再確認したときであったように思う。

「たしかに掲載はされますが、官報の破産者欄を毎日じろじろ眺めて、ああこの人は借金を抱えていたんだな、なんていちいち詮索する人は誰もいませんよ。あなたもどんな人が破産者かなんてご存じないでしょう?」

事務員さんは優しく説得してくれたが、転職の際私の名前が調べられるのではないか、借金で首が回らなくなった駄目人間と思われるのではないか、といった不安がどうも払拭できない。

つまり私が最も心配していたことは、自己破産が今後の人生に暗い影を落とすのではないか、転職や結婚で苦労するのではないか、ということだった。

たしかに一部の職業は制限されるのだから、その職業に就いている人にとっては死活問題だ。カードもブラックリストに載るのだから、すぐに結婚してすぐにマイホームを、というのも難しい。

「だからこそ、お若いうちに破産のご決断をされた方がいいです。ブラックリストは10年で消えます。その時でもまだ33歳ですよ。あなたは若い。若すぎるくらいなんです。これからの人生、どうとでも好転しますよ。」

「…分かりました。」

 

自己破産は借金からの卑怯な逃亡、というように考えていたふしもある。しかし、ある意味で人生をやり直す好機であるならば、これに賭けたい、やり直したい、と強く思った。